日常の中で欠かせない絵本の読み聞かせ。
私は本を見るのも読むのも好きな方。
おかげさまで、子どもたちが進んで自分の好きな絵本を探してきてくれるようになってきました。
『天国の本屋』(かまくら春秋社)松久淳+田中渉(著)(2000/12/31)
この本を買ったのは20年くらい前でしょうか。
本棚の整理中に奥から出てきました。
表紙には、いわさきちひろさんを思い起こさせる絵。
厚みもそんなにないので、再読してみました。
最初にネタを恐縮してしまうのですが、一言でいうと本屋を舞台にした朗読サービスを通じた恋の物語。
ただし、舞台は天国ということです。
人間の現生での寿命は100年ちょうど。「天寿」といいます。20歳で死んだ者は残った80年を天国で過ごし、天寿をまっとうする。100歳という天寿をまっとうすると、人は天国での記憶を消去され、赤ん坊として現世に再び生まれてくる。
P19
あらすじはこんな感じ。
ネタバレ注意なので、気になる方は飛ばしてください。
主人公のさとしは、就職活動も上手くいかない無気力な大学4年生。 コンビニで見知らぬ老人ヤマキに声をかけられ、書店での短期バイトを強制的に始めさせられます。働き始めた書店では、お客さんが持ってきた本を朗読するサービスがウリ。初めて朗読サービスをやってみた、さとしの周りには多くの人が集まって聞いてくれました。同世代の店員のユイは店番中にゲームばかりやっている子で、朗読サービスは全く手伝いません。理由は、ユイがいつも読んであげていた弟が、自分の不注意で亡くしてしまったこと。ユイは後悔の思いが強くて、天寿が全うできずにいます。天寿をまっとうすると、ユイもさとしも現世に戻るが、二人ともお互いの記憶をなくしてしまう。さとしは、ユイに恋を抱き、自然体のユイを引き出そうとします。最初はウザがられていたけど、次第に打ち解け、ユイから弟の話を聞きます。あくる日の朗読サービスで小さな男の子が『ナルニア国の物語7』を読んでほしいと持ってきます。朗読をすると、今までは見向きもしなかったユイがギャラリーの中にいる。さとしは、朗読をユイに替わって物語を最後まで読んでもらいます。その小さな男の子は、ユイの弟。ユイは弟に自分の気持ちを伝えて謝ることができ。弟は感謝の気持ちを伝えます。自分の気持ちを受け入れたユイは現世に戻り、さとしも短期バイトを終えます。書店の引継ぎに来たのは、子どものころ朗読をしてくれた、さとしのおばあちゃん。さとしもおばあちゃんに感謝の気持ちを伝え、天国を去ります。現世に戻ったさとしは、書店勤めを経て、朗読サービスのある自分の書店を開業します。ユイという伴侶と一緒に。といった物語。
映画『君の名は』みたいな感動のあるファンタジーです。
ページ数は117ページですが、2時間もあれば読めます。
天国はボーナスステージ
現世が終わったら天国があり、天寿をまっとうできれば、記憶を消去してまた現世に帰る。
まるで輪廻転生ですね。
大人になると最大の恐怖は、死ぬこと。
この世から自分がいなくなったら、どうなるのだろうか。
わからないから不安が生じ、怖れとなるのでしょう。
この物語では、天国の存在を示すことで、現世がたとえ短かったとしても、天国があるよとボーナスステージのように位置付けて安心感を与えてくれます。
朗読の意味
字が読めるのに朗読を希望する意味って何でしょう。
一つは時間の共有ではないか、と思いました。
少なくとも朗読者と書物を通じて同じ空間の中にいられます。
一人の空間も心地よいけれど、誰かとシェアするのは楽しい。
天国にいる人が朗読をしてもらう意味は、他人に読んでもらうことで、各々が自分の思いを引き出して、いい意味で自分なりに消化しているのかなと思いました。
現世でも天国でも必要なもの
「ありがとう」5文字の中に含まれる意味は、とてつもなく大きいです。
「ありがとう」がすっと出てくる人に悪い人はいないような気がします。
私は現世しか知らないけれど、現世を上手く生ききるには、「ありがとう」感謝の気持ちは欠かせないのではないかと思います。感
謝の気持ちさえあれば、現世でも天国でも穏やかに過ごすことができるような気がします。
そして、天寿をまっとうできるはず。
所々出てくる、さとしのおばあちゃんや、ユイの弟が教えてくれるのは、きっとそういうことなのかなと思いました。
自分へ読み聞かせ
この本を読んで、「読み聞かせ」って、子どもたちに与えるものではなくて、自分に読み聞かせている、俯瞰したような感覚じゃないかなと思いました。
音読とか朗読っていうと硬いのだけれど、なんというのかな。
押し付けではなくて、絵本を読みながら、一緒の時間の共有。
子どもたちと触れ合いながら本を声に出して読む。
せがまれて読むことの方が、多いけれど、物語を読み始めたら、登場人物になった気持ちで楽しみます。
時間のない時、疲れているときなど、ゆっくりさせてほしいなと思うこともあるけれど、子どもたちから本を読んでほしいと頼まれたら、喜んで一緒に読もう。
そして、本当に天国にも本屋さんがあったら、うれしいな♪
いつかこの世を去るときに、天国に行きたくなるかもしれないよ。
天国で過ごす楽しみがあるなんて素敵じゃない?
現世から天国へ、天寿をまっとうすることの意味を考えさせてくれて、温かい気持ちにさせてくれた本でした。