東京オリンピック、パラリンピックが終わってもうすぐ1カ月。
コンセプトが「多様性と調和」でしたっけ。
頭ではわかっているんだけど、いったいどういうことをすれば良いのかなぁ。
閉会式を見ながら名残惜しい気持ちになりました。
そんな中で出会った、瀬尾まいこさんの『夜明けのすべて』水鈴社(2020/10/20)。
「多様性と調和」の実践には相手を受け入れる理解力と小さなお節介が必要なんじゃないかな。
そんな答えを抱かせた、人と人の温もりに触れられた温かいお話でした。
病を抱える二人のお話
このお話はPMS(月経前症候群)の藤沢美沙とパニック障害の山添隆俊の2人の物語。
PMSとは生理前に起こる体や心の不調。
パニック障害とは突然理由もなく、動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えといった発作がおきて日常生活に支障をきたす状態のこと。
見た目は問題ないから、そういう状況になった時、周りからは単に変な人と思われがちになります。
私もきっとどこかで突然怒っている人を見かけたら、変な人がいるなとネガティブな印象を持つだろうなと思っていました。
知らなかったPMS
藤沢さんのPMSはイライラの爆発です。
月経前症候群という名前は聞いたことがあったけど、PMSと略されることも初めて知りましたし、PMSは肉体的なもの、例えば腹痛であったり、吐き気などが中心だと思っていたので、精神的な症状も含むものとは、全く知りませんでした。
月経のことって大変な人はとてもしんどいです。
女性は自分の経験をもとに話してしまうし、男性はそもそも月経がないので直接的な痛みが分かりづらいです。
その辛さは何を例えにしたらよいのか測りかねるので、周りには伝えにくく伝わりにくいのではないかと思いました。
何でも怒りにつながってしまう藤沢さんのようなPMS(月経前症候群)ともなると、本人の性格の問題ではないかと大きな勘違いをしてしまいそうです。
名前に誤解していた
パニック障害とは正直なんのことだかよく分かりませんでした。
名前から、パニックを起こしているんだろうな、と。
パニックってどんな感じなのか調べてみると、厚生労働省のホームページに、“パニック発作は、死んでしまうのではないかと思うほど強くて、自分ではコントロールできないと感じます”とありました。
とにかく不安が強く、心身に支障をきたす状況であることは分かりました。
いつ発作が起こるか不安が募ると、発作の起きていないときでも億劫になりそう。
そして、山添君はその典型だったのだと思います。
自分で自分のことが分からなくなるほど怖いものはありません。
苦しい時は、周りが見えなくなりがち
栗田金属は冴えない会社。
金属という言葉からも高度成長を支えた産業で、最近では斜陽産業ともいわれているような会社。
働いている社員も6人と少なく、しかも年齢層も高い。
成長性からしたら、一見、全く魅力を感じない会社です。
もともとコンサルティング会社でバリバリ働いていたいわばエリートの山添君はそんな会社を見下していたのかもしれません。
30歳くらいって何となく上手くいくと、自分に自信が持てたりするのですが、自分を過信してしまうことも。
私自身も仕事は自分がいなければ回らないのではないかと自意識過剰に陥っていたことが幾度もあります。
若いことは勢いがあって何でもチャレンジできるいい面もありますが、同時に猪突猛進してしまい周りが見えなくなってしまいがち。
そして、自分が苦しい思いをしているときもそう。
なんで自分だけがこんな目に合わなくてはいけないのだろう、と思うようになると自分しか見えなくなりがちになります。
山添君はそんな状態だったのかなぁと想像しながら読みました。
少しの優しさが、きっかけになるかも
物語は、藤沢さんの強引な優しさというか善意というか、いわゆるお節介から進展していきます。
藤沢さんみたいな人を女子力が高いというのかなと思ったりしました。
この女子力は、気配り上手ということで、外見的なものではありません。
気配りができるということは、周りがよく見えている証拠。
もともと藤沢さんは、良く周りを見て観察して自分に何ができるか考えられる人なのでしょう。
よくいる巷のおばちゃんたちも、そういう力を備えています。
お節介だなと受け取られて面倒な人と思われることもありますが、実はそんなに悪い気はしないはず。
なぜなら、自分を気にかけている人がいるということは、有難いことだし、安心できるから。
人間には、誰かから認められたいと思う承認欲求が少なからずあるので、他人から気にかけられたと感じると少し安堵する気持ちが芽生えるのではないかと思います。
世の中は優しさにあふれている
子どもたちを連れて街に出かけると、必ずと言っていいほど優しくしていただけます。
冷たい視線を浴びることもあるかもしれませんが、圧倒的に優しさの方が多いです。
スーパーでレジの順番を譲っていただいたり、バスや電車では席を譲っていただけたり。
おじいさんおばあさん、高校生っぽい男の子、女の子、おじさんおばさん、老若男女問わず優しさを頂いていて、出産後閉じこもって、ネットを見ながら社会に怯えていた自分が恥ずかしくなりました。
意外と世の中って優しさにあふれています。
そして、その優しさに触れられた私は、常に次は私が優しさを配る順番とも思っています。
もし近くに心や体が疲れてしまっていそうな人がいるなら、ぜひ小さな優しさを分けてあげましょう。
お節介かもしれないけれど、その行動がきっかけとなって元気や勇気をもつ一歩につながるかもしれません。
自分が近くの人に気を配り、その人がまた近くに人にお節介をしてあげて、優しさの連鎖が自然なかたちになれば、柔らかな世界につながるんじゃないかな。
夜明け前が一番暗いんだよね。
でもまた朝は来るの。
小さな優しさがつながるって素敵だなと思わせてくれる、とても心が温かくなる本でした。