村田沙耶香さんの『コンビニ人間』 文藝春秋 (2018/9/4)を読みました。
世の中にはたくさんの職業があります。
それぞれの職業に意義はあるし、働いている人には敬意を払っているつもりでした。
芥川賞を受賞された村田沙耶香さんの『コンビニ人間』 を読んで、世の中にはいろんな人がいて、輝けるところだって人それぞれなんだと再確認しました。
周りと違うことは異物?
主人公は、36歳未婚女性、古倉恵子。
大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。
男性とお付き合いしたこともない。
日々食べるのはコンビニ食。
ある日、勤め先のコンビニに、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられ、同棲を始めてみるが、自分の流れている感覚に従い選択をしていく、というお話。
就職活動真っただ中の私なら、36歳未婚女性、コンビニのアルバイト。
と聞いたら、たぶんヤバい人なのかな?と思ってしまいます。
最近になって、LGBTとか発達障害など、それぞれの人が持つ特徴を目にする機会が多かったために、多少は自分の考えも改めてきたとも思うのですが…
それでも、自分の周りにいたら、「なにかあったの?」って理由を聞いてしまうかもしれません。
婚活目的の入ってきた白羽が、言い放った異物という言葉は、自分としてはそんな風に思っていないのだけれど、はじき出された人からすれば、そういう捉え方なんだろうな、と素直に認めることが出来ました。
私たちの住んでいる社会が…
もしかしたら、私たちの住んでいる社会がコンビニなのかもしれません。
昔なら男は働き、女は家庭を守るというのが一般的でしたが、今となっては、女は子どもを産み育て家庭を守りながら社会進出するという形に変化しているのかもしれません。
多数の苦労した女性の方々の結晶が、育児休暇を男性にまで広げ、保育園の補充や拡大、質の向上、無償化、配達サービスの充実、児童手当などなどサービスとなって、私も恩恵を受けています。
主人公的に言うと、人類だって生き物だから、子孫の繁栄を期待して制度やサービスが拡充しているのかもしれませんが、大多数の人が、結婚して家庭を持ち、家族に囲まれて老いていきたいと願っているのだろうと思います。
この幸せの形は、いい意味で、きちんと陳列され、マニュアル化された人材がレジを打つようなコンビニに似ているのかもしれません。
自分たちが気が付いていないだけで、この形が理想という形は、同じようなものだったりするのかもしれないなぁと思ったのです。
だから、30歳代半ばにもなって、結婚せず、コンビニのアルバイトって将来どう考えているのかしら?となるのではないでしょうか。
主人公の家族や同級生も、私と同じように、そういう匂いというか行動をプンプンさせてきてくれます(笑)
同化しなくても良い
読み始めの頃は、主人公の古倉が、サイコパス的にも見えていました。
しかし、コンビニの仕事には忠実。
いわゆるマーケティングはしっかりしているし、生活の中にまで職業意識があって、社会的不適合者なんかでは全くありません。
むしろ優秀な人材。
少なくとも、私は古倉のような仕事はできないし、むしろ尊敬するような仕事ぶり。
職業がコンビニのアルバイトなだけ。
コンビニのアルバイトが底辺かどうかは分からないけれど、コンビニがあるおかげて世の中に貢献しているし、助かる人だってたくさんいます。
そういう言い方をすると見下した言い方になるのかもしれませんが…
自分が、コンビニのような世界に生きているかもしれないという客観的事実も見えないままに、自分自身が一度見下した見方をしてしまうと、なかなか見方を変えることって難しい。
作品的には、最終的に主人公の古倉が、自分が生きていく世界を見つけられてのは、ハッピーエンドだったのではないかなと思っています。
無理に周りに合わせて、同化しようとして、疲れてしまっては、誰のための人生なのか分からなくなります。
みんなちがって、みんないい。
言葉では、簡単に言うけれど、意識を変えるのは難しいもの。
でも、そういう自分が生きている世界も、画一化されたものかもしれないと気づかされた、実社会との描写がとても面白い内容の作品でした。