「こうのとりのゆりかご」って知っていますか?
コウノトリだから、赤ちゃん関係かなぁ。
何となく耳にしたことがあるような無いようなそんな言葉。
「こうのとりのゆりかご」という名を知ってもらった方がいいのか、知らないままでいいのか考えさせられる機会になりました。
今回の本は田尻由貴子さんの『はい。赤ちゃん相談室、田尻です。』(2016/9/10)の読書感想です。
この本は、赤ちゃんポストの開設者である田尻さんの生い立ちから今までの自伝のような本です。
今まで無縁だと思っていた赤ちゃんポストについて調べるきっかけになり、沢山の情報から肉付けをしてみました。
「このとりのゆりかご」とは?
「こうのとりのゆりかご」は赤ちゃんポストのことです。
赤ちゃんポストと聞いて、答えが分かった方もいらっしゃるかと思います。
私もその一人。
熊本県の慈恵病院で2007年から運用されています。
その名称ということです。
慈恵病院は、熊本県熊本市にある98床の一般病院。
カトリック系で内科や外科の他に産婦人科があります。
「こうのとりのゆりかご」の由来は、“赤ちゃんはコウノトリが運んでくる“、“コウノトリの住んだ家には幸福が訪れる”という言い伝えからです。著者の田尻さんは、開設から8年間の現場生活をしていた助産師さんです。
ドイツの「ベビークラッペ」がモデル
日本版赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」はドイツの赤ちゃんポスト「ベビークラッペ」がモデルです。
ドイツにはなんと93か所もあるのだそう。
赤ちゃんの遺棄事件がきっかけで、2000年に世界で初めて設置されました。
ドイツの冬は日本よりも寒く、外に遺棄されてしまう凍死してしまうことから温かいベッドと毛布を設置されたのだそうです。
日本でもドイツでも赤ちゃんを第一に思っての設置だったのですね。
赤ちゃんポストの仕組みと利用数
慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」に入れられると、ナースセンターと新生児室のブザーが鳴ります。
スタッフが駆け付け、医師が診察。
警察署と児童相談所に連絡をされます。
警察への連絡は事件性の有無を確認するためだそうです。
児童相談所に保護され、里親や児童養護施設などで生活するのだそうです。
熊本日日新聞によると2020年の件数は4件。
コロナの影響もあるのかもしれませんが、例年ですと年間10件程度利用されています。
ちなみに「こうのとりのゆりかご」の運営にかかわる費用は、年間にしておよそ2千万円で寄付金以外はすべて病院が負担しているそうです。
妊娠したら無料で相談可能なところ
自分が今振り返ると妊娠期間中ってあっという間だった気がします。
私は仕事をしていたので、会社へも行かなくてはならなかったし、休日もくたびれて何もできない日もありました。
十月十日はとてつもなく早く感じました。
様々な事情のある方が、病院にかかれなかったり、誰にも相談できずに時間が過ぎてしまうことは、あらためて考えると事情が変われば自分もそうなったのかもしれないなと思ってしまいます。
妊娠中に無料で相談できる場所があればいいのになと思っています。
ちなみにドイツでは、「妊娠葛藤相談所」という相談施設があるのだそうです。
ドイツで中絶を行うには、中絶の3日前までに「妊娠葛藤相談所」で相談を受けていることが条件としています。
お母さんをサポートするのとお腹の中の赤ちゃんを保護するのと同時進行でサポートしているんですね。
日本でもないのかなとおもって探してみたら、一般社団法人全国妊娠SOSネットワークという組織が電話やメール、Line風なメッセージのやり取りで相談ができるようです。
私が知らなかっただけで子どもとお母さんの手をつなぐ輪は広がっているんですね。
生まれる前も生まれた後も
この本は、慈恵病院でのエピソードもいくつか紹介してくれます。
初めて赤ちゃんポストに入れられたのは新生児ではなく、3歳の子だそうです。
病院の想定を超えたものでしたが、この子は無事に里親さんと結びつくことができ、幸せに暮らしているとのことです。
他にも障害や病気を持ってしまった子のエピソードなど、いろいろな事情の人がいます。
なんとなく、そういう人もいるんだな、いろいろあって大変だよねと対岸の火事のように思っていたのですが、読み終えるころには、誰かがセーフティーネットを作らないと大切な命が危険にさらされる、そして「こうのとりのゆりかご」に入れられた子どもたちのその後の生活の場を支援しないと、せっかく助けた命が不幸になってしまうのではないかと思うようになりました。
生まれる前も生まれた後もサポートができる支援体制ができると安心して育てられますよね。
とても難しい問題ですが、一人ひとりがどうしたらいいのかを考えることが、社会を良くするような気がします。
そんなきっかけを与えてくれた本でした。