瀬尾まいこさんの『そしてバトンは渡された』(文芸春秋)の読書感想文です。
温かな感情で満たされました。
このお話は、父親3人母親2人と親が変わった女性の成長のお話です。
本の帯には、
家族よりも大切な家族。血のつながらない親の間をリレーされ、四回も名字が変わった森宮裕子一七歳。
だが、彼女はいつも愛されていた。
身近な人がいとおしくなる、著者会心の感動作
とあります。
子どものうちに名字が変わるのは嫌だろうな、親まで変わってしまうなんてどんなストーリーになるのだろう…、そんな気持ちで本を手に取りました。
以下はあらすじをまとめながら感想をお話しします。
主人公は優子です。
優子の実母は、優子が三歳の時に病気で亡くなったらしく、実父と継母と暮らしています。
最初の選択は十歳の時。
実父の海外転勤から、実父と一緒に海外に行くか、継母と日本に残るのかの選択をします。
小学校高学年といっても十歳です。
正しい判断が、そのあと悔やまない判断ができるはずはなく、優子は実父よりも、友達と一緒にいることを優先します。
この選択について、優子は否定も後悔もしていません。
十七歳の優子は
「友達は絶対ではない。」
「(同級生の)萌絵や史奈はいい友達だけど、私の将来を約束してはくれない。」
と考えており、十歳の時の選択について、
もしも、優先順位をつけなければいけないのなら、正しい順に並べるべきだ。それなら、たとえ、自分の選択に悲しくなることがあったとしても、間違いだったと後悔することはない。
と言いいます。
人生は選択の連続です。
結果を取り戻せない選択をしたとしても、前を向いてするべきことおろそかにしない。
自分の将来は自分で切り開くものだ。
という優子の強さを感じさせる一文でした。
その後も、転々と親が変わっていくのですが、優子の根幹はここにあるのかなと感じました。
この本に出てくる大人は、主人公である優子を第一に考えて行動してくれます。
とても温かい人ばかりです。
本当の親かどうかではなく、子どもに寄り添い、子どもが安心して過ごせる場所を全力でつくっている、そんな素敵な人たちです。
特に三番目の父である森宮さんは、印象的です。
優子の二番目の母である、梨花に出ていかれた時に、
「森宮さんは、梨花さんが出て行って、高校生の娘だけ押しつけられるなんて気の毒だ。」と思う優子に向かって、
自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって未来が二倍以上になることだよ。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない?
と言います。
この一文を読んで「親になるって、明日が二つになることなんだ。」と感慨深く思いました。
大人からの温かい眼差しを受け、安心できる環境で育った子どもが、強さもあり穏やかな心の持ち主にとなり、そして、バトンが次の未来へと渡されていく姿は、最後まで読むと、自分も穏やかな優しい気持ちになりました。