晴れた暖かい日、冬になると木々が日差しを遮ることから避けていた道を通ると、木漏れ日からの光がやわらかく刺していました。
今の時期の日差しは、有難いものですね。
今回の本は辻村深月さんの『朝が来る』(2015/6/15文芸春秋)
タイトルと表紙に惹かれて借りてみました。
信じること
本書は、4章に渡っています。
お話の大まかな内容は、長い不妊治療を経ても子どもを迎えられず、特別養子縁組を利用して子どもを迎える夫婦と中学生にして妊娠してしまい、やむを得ず赤ちゃんを手放さなくてはいけなくなった女性のお話。
辻村深月さんの本は初めてで、あらすじなど何の知識もないまま読み進めました。
第1章は、子どもにまつわる夫婦の応対から。
子どものお友達関係とかママ友との関係とかそういう感じなのかなぁと思っていました。
この夫婦は、赤ちゃんが生まれてすぐに特別養子縁組を結んでいます。
子どもが小さい時から、自分たち夫婦の他に生んでくれた「広島のお母ちゃん」がいることを子どもに伝えていました。
両親が包み隠すことなく事実を伝えていることで、子どもはまっすぐに育っていったのでしょう。
ある日、お友達とのトラブルに巻き込まれてしまいますが、、夫婦は子どもを信じます。
もしも子どもが間違えていたとしても、子どもを信じ切ることを徹底していました。
この姿は、私も子どもたちを信じ切ることができるだろうか?と自分に照らし合わせしまいました。
我が子たちはまだ小さくてまだ家庭という社会から出てはいないのだけれど、一歩、外に出かければ様々な出会いがあります。
いい出会いもそうでないことも、親が子どもたちをそっと温かく、信じ、見守ること。
親子であるからこそ、そういう姿勢が大事なんだと改めて思いました。
きっかけはなんでもいい
特別養子縁組をする前、夫婦は普通の夫婦でした。
今でいうところの共働きパワーカップル。
仕事も順調でお金もそこそこあるごく普通のカップルです。
子どもは出来たらいいけど、いなくてもいいかな。
そんな風に夫婦は思っていました。
この感覚、すごく共感しました。
私も、晩婚で30代は仕事も覚えて任される仕事に充実感を覚えていて、このまま妊娠、出産、育児、仕事と順よくできるものだと簡単に思っていたのです。
実際は、そんな甘いものではなかったのですが…。
この章では、リアリティがあって、是非男性の皆さんに読んで欲しい部分だなと思いました。
妊娠出産は女性だけのイベントではないです。
男性は体が変化するわけでもないし、不妊に対してまさか自分が…と思いがちですが、事実を知ってもらい、二人で寄り添い話し合いながら進めていく、決断していくことが必要だと思わせてくれる章です。
この夫婦は、不妊治療を諦め決断をするのですが、テレビ番組で特集された特別養子縁組から興味を持ち始め、民間団体の説明会に行きます。
それから段階を経て登録となります。
きっかけは、テレビ番組でふんわりした気持ちでも、徐々に気持ちを固めていく夫婦の姿は、十月十日を過ごす夫婦と何ら変わりはなく感じました。
それどころか、特別養子縁組をさせてもらうという意識からか、子どもと産みの母親に敬意がありました。
私も手術室で初めて赤ちゃんと対面した時の感動はあったはずです。
最近イヤイヤ期に悩まされて薄れがちになりますが、子どもを育てさせてもらっているんだったということを改めて気づかされる章でした。
歯車は、いとも簡単に狂いだす
第3章は、産みの母親のお話です。
両親が公務員という傍からみれば普通以上環境がありそうな家庭の育ちの少女。
両親が求める子どもになり切れず、ジレンマを抱えていたのでしょう。
少しずつ少しずつ家族、特に母親とのかかわりというか歯車がずれ始めて、人生が大きく崩れ始めます。
少女が求めていたのは何だったのだろうかと考えてみると、無償の愛とか信頼とかそういう部分だったのじゃないかなと思います。
私もついつい我が子を叱ってしまいますが、自分の事情で怒っているのであって、子どもには子どもの事情があります。
まずは本人から話を聞いてそのうえで、どうしたら良いか一緒に考えるという少し手間に思える工程が幼い子どもたちにも必要なんだと思います。
本書に出てくる少女は、いとも簡単に転落した人生を送っていきます。
自分で判断できる範囲でしか決められないので、幼さゆえの未熟な判断もあります。
そこに大人がいるのだけれど、差し伸べてくれる手はありませんでした。
そして、“正しさ”の通用しない世界まで片足を踏み入れてしまいます。
読み進めていくうちに自分が辛くなり読み飛ばしたくなるような場面もあります。
そこには自己責任では片づけられない何かがあり、なんとかセーフティーネットにつながって欲しい気持ちで読み進めました。
セーフティーネットにつながらないと犯罪につながってしまう構造は、とてもよく描かれていました。
そして、朝が来る
最後に一筋の光が見えます。
読み手としてはホッとした気持ちになりました。
助けを求める人って、目立たないところで沢山いるのだろうな。
明けない夜などありません。
朝は誰にでも来ます。
今、辛い人は行政でもいいし、公的な機関を頼って欲しい。
今、幸せな人は今があることに感謝の念を持った方がいい。
本書のテーマは特別養子縁組。
私には全然想像できない世界でしたが、本書を通して産みの親の辛さや苦しみ、育ての親になるまでの苦悩や葛藤など学ぶことの多い作品でした。
自分も一人の親として、子どもたちと過ごし、子どもたちを愛し尊重することでお互いに成長し合える中になれるといいなと思いました。